クリニック開業のススメ
クリニックの開業の成功に向けた現場で役立つ実践的な情報を提供します。
【施設基準管理士が解説】クリニック経営で重要な施設基準とは?
はじめまして、TOTALグループの吉井と申します。私は施設基準管理士として、開業時をはじめとしたクリニックの施設基準のご案内や届出のサポートをしております。
「施設基準管理士」という資格は聞き馴染みのない方が多いかもしれません。施設基準管理士は、医療機関の施設基準の届出や管理を専門的に行う資格として、一般社団法人日本施設基準管理士協会が2018年に創設した比較的新しい資格制度です。私は開業支援で行政手続きを行う中で、この資格が分かりやすいアピールになると考えて取得を目指しました。膨大な範囲や入院基本料の様式作成に苦戦しましたが、なんとか2022年度(第5回)の認定試験に一度で合格することができました。
そして、これが結果的には診療報酬と施設基準について全体像を把握し、届出実務を見直すきっかけになっています。要件だけでなく収益への影響や懸念点を理解し、その施設基準がクリニックの診療にマッチするのか、先生方と同じ目線で考えながらご提案することを日々の業務で実践しています。
このようにクリニックの施設基準を専門とする私としては、クリニック経営における施設基準の重要性を体感しておりますが、開業を控えた先生方からはそもそも施設基準というものをよく理解できていないといった声も度々お聞きします。
本記事では、施設基準の概要を解説していきますので、知らずに損をしないための基礎知識としてぜひご一読ください。
施設基準とは?
保険診療では診療行為と報酬が細かく決められており、診療報酬点数表に記載された算定要件に合致した場合に、対応する点数(1点=10円)を算定することができます。この算定要件では、どのような患者(疾患や状態)に対して、何を行ったか(診察や検査、処置等の内容)という、提供する医療そのものを評価していることがほとんどです。
一方、一部の算定要件の中には、別途定めた施設としての人員や設備等の基準を満たし、届出を行った医療機関でのみ算定できる旨が記載されているものがあります。この人員や設備等の基準が「施設基準」です。つまり、実際に行った診療内容ではなく、その前提として医療機関に適切な体制や設備が整っているかを評価軸としたものです。
また、この施設基準の具体的な要件は、点数表とは全く別の告示や通知と言われる行政文書に細かく規定されています。これが、施設基準が分かりにくいと言われる理由の一つです。
どんな要件がある?
では、その点数表と別に記載されている要件には、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。クリニックの施設基準では、主に以下のような要件があります。
1.人員配置や体制(ヒト)
特定の職種・人数が、何の業務に、どのような勤務体制で配置されているかという人員要件が定められている施設基準があります。さらに、一定の経験(年数や症例数)を持つ者や所定の研修を修了した者など、より高度な人員が求められる場合もあります。また、例えば時間外の対応や他医療機関との連携、委員会やチームの設置等の診療体制が問われることもあります。採用や人材教育、組織編成といった経営上の課題は、施設基準においても重要な要素になっています。
2.施設の構造や設備(モノ)
部屋や面積等の物理的な構造の他、目的の医療を提供するために必要な病床や医療機器、器具等を備えていることが要件の施設基準があります。クリニックの設計や設備投資等の根本から検討しておく必要があります。
3.実績や取り組み(コト)
医療機関で特定の診療を行った件数や、重症度の高い患者の診療割合等の実績が求められていたり、患者への説明や周知、計画や指針の策定、会議や研修といった医療機関の取り組みが要件とされている施設基準もあります。クリニックの現状を把握し、その要件によっては日常の診療の中での意識やオペレーションを見直していく必要もあるでしょう。
施設基準には、これらをはじめとした多様な要件があり、一つの施設基準には複数の要件が細かく定められていることがほとんどです。これらは全て算定するために不可欠な前提条件であり、どれか一つでも満たさなければ算定することはできません。従って、要件を一つずつ丁寧に読み解きながら検証し、クリニックの体制等を考えていくことが必要であると言えます。
届出の進め方
前述のとおり、施設基準には届出が必要(一部、届出が不要な施設基準もあります)ですが、具体的にはどうすればいいのでしょうか。ここでは具体的な届出の進め方を解説していきます。
1.届出に関するルール
届出書は、医療機関の所在地を管轄する地方厚生局の都道府県事務所へ提出します。窓口への持参または郵送も可能です。また、現在は多くの施設基準が電子申請の対象となり、電子による届出も可能となりました。
届出の期限は毎月1日(1日が閉庁日の場合、翌開庁日)です。それまでに届出書を提出し、受け付けてもらうことで該当月の1日から算定することが可能になります。
例:4月1日に提出→4月1日から算定開始、4月2日に提出→5月1日から算定開始
また、郵送の場合は期限までの必着になりますので、ご注意ください。
届出後の対応として、施設基準の要件を満たさなくなった場合は辞退の届出が必要です。また、施設基準によっては届出内容に変更があった際に再届出が必要なものや、毎年決まった時期に定例報告が必要なものもあります。
2.届出の手順
以上のように、提出が1日でも遅れてしまうと、本来1か月分の算定により得ることのできた収益を失ってしまうこともあります。そのため、施設基準の届出は以下の手順で、余裕を持って進めることをお勧めします。
ステップ① 要件の精査
まずは、算定したい施設基準の要件を確認し、自院がそれに適合しているかを検証します。施設基準は、届出書を提出すれば算定が開始できる仕組みになっていますが、それには要件を満たしていることが前提です。要件の解釈を誤認して届け出た場合、後日不適合が発覚すれば不受理となったり、過去に遡って診療報酬の返還が必要となる可能性もあります。また、虚偽の届出を行えば不正請求とみなされ、処分の対象となるリスクもあります。
ステップ② 届出書類の準備
施設基準ごとに提出すべき届出書類は異なります。地方厚生局のホームページに各施設基準の届出様式が一覧になっていますので、そちらからダウンロードして記載内容を確認しましょう。要件を満たす事実を証明するため、中には図面や資格証の写し等の添付書類が必要な施設基準もありますので、添付書類の有無も事前に見ておきましょう。
ステップ③ 提出とその後の対応
書類が整ったら、地方厚生局の都道府県事務所へ提出します。書類について確認や補正が必要な場合は厚生局から連絡が来ることもありますので、迅速に対応しましょう。届出後は基準に適合している限りそのまま算定し続けることができますが、定期的に適合性をチェックすることをお勧めします。
クリニックの経営における重要性
さて、ここまで施設基準の概要を解説してきました。施設基準は提供する医療が適切に評価され、それに見合った対価を得るための重要な要素であり、事前の準備が欠かせないものであるということがご理解いただけると思います。
近年の診療報酬改定では、社会情勢や財政状況を踏まえ、医療機関の機能面や医療の質を評価する方向へシフトしているように感じます。施設基準はそれらを評価する物差しとして、クリニックにおいても年々その重要さを増していると言っても過言ではありません。経営的な視点で、取れる点数を取りこぼさないこと(守り)・より高い点数を取るための体制や実績を構築していくこと(攻め)の両面から、ぜひ施設基準についてしっかり検討してみてはいかがでしょうか。
一方で、施設基準には膨大な数があり、何がクリニックに必要なものか取捨選択が難しいという方も多いのではないでしょうか。施設基準が定められているのは一部と前述しましたが、それでも届出が必要な項目は600近くあり、そのうちクリニックが対象となるものも少なくありません。必要なものを選択し、自ら手を上げなければ算定できないという「届出制」であることが、施設基準における高いハードルの一つになっています。
弊社の開業支援サービスでは施設基準管理士である私の監修のもと、クリニックに合わせた施設基準のご案内や届出のサポートを行っています。多い時には10件近くの項目を対応することもあり、それほどの施設基準を整理して届出を準備するのは正直大変なこともあるのですが、クリニックの収益が大きく変わる可能性があると捉え、できるだけ多くの可能性を提示できるように日々アップデートしています。
クリニックにおける施設基準については、今後もより具体的な内容を分かりやすく解説していきますので、ぜひ参考にしてください。また、ご自身のクリニックについての相談をご希望の場合は、お気軽にお問い合わせください。
本記事が、皆様が施設基準について考えるきっかけになれば幸いです。

執筆者 / 吉井 鴻輔
行政書士法人TOTAL 行政書士 施設基準管理士 メディカルクラーク® 医薬品登録販売者試験合格 中央大学法学部卒業
IT系の上場企業でシステムエンジニアを経験後、行政書士としてTOTALに入社。
クリニック開業支援を担当しながら、医療法人や薬局の許認可など、医療系を中心に幅広い行政手続きに携わる。