医院・クリニックを開業しようとした時、どこで開業するか(立地選定)はとても大切です。
開業地として選択肢となるのは、事業用建物のテナント、戸建て、または医療モール(クリニックモール)などでしょう。
その選択肢の中の一つである医療モール。
今回は、医療モールで開業すると、どんなメリットやデメリットがあるかについてお伝えしていきます。
目次
そもそも「医療モール」とは何でしょうか?
医療モールとは、様々な診療科目の医療施設がテナントとして入っている複合施設です。
患者様にとっては風邪を引いた、花粉症で鼻水が酷い、ねん挫した…などなど、一つの建物内で複数の診療を選ぶことができます。
また、通常は調剤薬局も併設されているので薬を出してもらうこともできます。
医療モールの特徴
医療モールは、ショッピングモール以外の集客のためのコンテンツとして利用されています。
モールの企画元が商業施設として医療モールを開発する際には、競合や周辺の住宅事情などの診療圏調査等を実施します。そのため、その立地は一定の集患が見込まれる(はずの)ロケーションとなっています。
医療モールの立地としては、駅前や繁華街立地のものだけではなく、幹線道路に隣接した「郊外型」の複合商業施設や「単独医療ビル型」、戸建てのクリニックが隣接した形での「ヴィレッジ型」などの種類があります。
また、郊外型の大型ショッピングモールの増加にともない、医療モールが集客コンテンツの一要素として機能しているケースもあります。
患者様にとって、お腹が痛ければ「内科」、花粉症なら「耳鼻咽喉科」、こどもの風邪には「小児科」などのように、最寄りの適切な診療科目のクリニックを探す際に、医療モールはとても便利です。
1つのモールで複数の診療科目が揃っているので、自然と利便性が高くなり『何かあったらとりあえず医療モール』として認知されることにもなります。
このように、一般的に医療モールは好立地にあり集客メリットが目立ちます。
しかし一方では、まだ空いている(残っている)物件があるのも事実です。
そのため、後述するデメリットもきちんと判断材料に入れないといけません。
医療モールのメリット
そんな医療モールで開業する際のメリットはズバリ、
『好立地の場所で開業できます!』
というものですが、もう少し深堀りして見ていきます。
① 当初から集患が期待できる
なんといっても一番のメリットは、開院当初から一定の集患が期待できるという点です。
既に医療モールとしてオープンしていて先に他クリニックが入っているのか、まったく新規の医療モールなのか、それによって集患力は異なりますが、同じ建物内に複数のクリニックが併設されていれば、開業直後でもクリニックの認知度はある程度高くなります。
また、医療モール施設独自の、建物としての広告もクリニックの集客に結びつくため、個別の広告宣伝費に頼らなくて良いという点もメリットとしてあげられます。
② 診療科目別の医療行為の連携
同じ建物内で複数の診療科目があるのは、患者様にとってはやはり便利です。
さらに、他クリニックとの連携体制をアピールすることにより、患者様にとっての利便性という観点からも、集患の相乗効果を期待することが出来ます。
③ テナントとして入居しやすい
医療モール自体がクリニック用に設計されているため、入居しやすくなっています。
一般的な物件の場合、クリニック向けの内装工事等に手間がかかる可能性があります。
しかし、医療モールであれば当初よりクリニックを想定した電気設備、給排水設備等になっているため、内装工事等の手間を省くことができることが多いのです。
さらに家賃面でも、開業までのフリーレント設定(賃料の無料期間)があるなど、入居しやすい条件が整っているケースもあります。
④ 診療圏調査等を省略できる
新設モールでない場合、すでに実際のデータが出ているため、集患のための厳密な診療圏調査や競合調査をある程度省略することができます。
医療モールのデメリット
クリニックが密集しているということには、メリットがあればデメリットもあります。
① モール自体の信頼が一蓮托生
同じモール内の他クリニックの評判が悪かった場合には、少なからず自院の評価にも影響があります。
また、空きテナントがあると印象は良くありません。
② 他クリニックの医師との相性
医療連携を考えると、他クリニックの医師との相性も考慮に入れる必要があります。
とはいえ、初見でその様なことを把握することは難しいです。
過度に心配する必要はないので、事前に他クリニックの医師情報をある程度確認しておけば充分でしょう。
③ 他クリニックの診療科目との相性
同じモール内での適正クリニック数は4~5件くらいです。
クリニック数が多過ぎると、例えば一般的な「風邪」などの場合には「患者を取り合う」割合も増えてしまいます。
他クリニックの診療科目は必ず確認しておきたいポイントです。
④ 立地と診療科目の相性
これは意外と死角なのではないでしょうか。
診療科目によっては、集患ターゲットが周辺地域の患者層とは合わない可能性があります。
立地の良さそうなモールだからといって無条件に期待していたら、患者様が意外と集まらなかった…という状況になる可能性もあります。
⑤ 好立地の場合賃料が割高
好立地なのですから、こればかりは仕方がありません。
表に出てこない物件情報も…
医療モールは、比較的立地が好条件であることもあり、クリニック開業時のテナントとして人気があります。
そんな医療モールの中でも、一部の物件情報はweb上に出てきません。
そういった物件の情報は、「医業開業に関わるコンサルタント」や「施設を開発した業者」との繋がりを作って初めて情報が流れてくるというケースがよくあります。
そもそも、医療モール建設の目的としては、調剤薬局、医薬品卸売企業、医業系のコンサルティング会社等がそれぞれの利益確保のために行われています。
『利益確保』といっても、テナント誘致による手数料などの一過性のものというよりは、開業後の継続的な取引を目的としたものが多く、それぞれの立場からの優位性を検討された医療モールとなっているはずです。
そういった事情から、どうしても一般的に探すよりも、企画元であるコンサルティング会社や各業種の開業支援担当者によって紹介されることが多くなってくるのです。
“良い物件”かどうかは、もちろん個別物件の問題となりますが、医療モールの物件情報にはその様な背景があることは理解しておいた方がよいでしょう。
立地の選定は開業後の1~3年を左右する大変重要な要素です。
開業後1~3年で、運転資金を使い果たしてしまう前に、経営を軌道に乗せられるかが大きなポイントとなってきます。
医療モールだからといって楽観視するのではなく、経営者としてメリット・デメリットを比較しながら、ぜひとも納得できる決断をしていただければと思います。