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(2)医業承継の分類と、第三者承継(M&A)の実際~その2〜

第2回目では、実際に第三者承継(M&A)で起こりやすいトラブルを取り上げ、事前対策の重要性についてご説明します。また、M&Aの仲介会社では余り関与しないテーマですが、クリニック経営に直接関わって承継開業後に重要となるPMI(経営安定化対策)について詳しくご説明します。

第三者承継(M&A)で起こりやすいトラブル

クリニックの承継開業」(1)の記事で指摘した通り、クリニックの第三者承継(M&A)では、承継前、あるいは承継後にも譲渡側・譲受側の双方に様々なトラブルが起きやすいのも事実です。ここでは、「日医総研医業承継の現状と課題、2019」から代表的な事例をピックアップしてみます。今後、第三者承継(M&A)を進める際には、是非ともご留意頂きたい事項です。 

①M&A仲介会社との契約内容及び業務内容についての理解不足に起因するトラブル 

M&A仲介会社は契約により2種類の役割が可能です。一つは、譲渡側・譲受側の双方 のアドバイザー(仲介契約と呼びます)、もう一つはどちらか一方のアドバイザーの役割(FA契約と呼びます)です。どちらの場合も、譲渡成立に向けて代理人として活動し、譲渡成約時には契約者から成功報酬として手数料を得るのが一般的ですが、この際に、「手数料が高額である」として、譲渡側または譲受側と論争になることがあります。          

また、譲渡側・譲受側の双方の仲介人になる場合、成約時には仲介会社は双方から手数料を得ることになりますが、これに対して「利益相反」との疑いを持たれクレームになることもあります。                                     

M&Aの仲介会社は契約に従って活動します。ですので、仲介会社と契約する際には、依頼者は事前に「秘密保持契約書」や「仲介契約書」などを十分精査し、疑問点を徹底的にクリアにして頂く必要があります。

②承継されるクリニックのスタッフとのトラブル

スタッフの労務問題

承継前から旧クリニックで起きている場合もありますが、承継後にスタッフが労働時間、給与、手当等への不満を抱き、結果的に主要スタッフの退職や、スタッフの大量退職などが発生するケースです。対策としては、承継時に旧スタッフと新入職者への説明会を開催し、就業規則等の確認や労働条件通知契約書の締結など、労務担当専門家を交えて労務対策に対処する必要があります。 

退職給付債務の引継ぎに関わるトラブル

これは、お金に関わるトラブルでもありますが、承継後にスタッフの退職給付債務が引き継がれていないことが判明し、新院長とスタッフでトラブルになるケースです。    

通常は、譲渡契約書においてスタッフの退職金の取り扱いを定め明文化するのが一般的ですので、譲渡契約書で見落としがないかチェックする必要があります。

③建物・機器に関わるトラブル

承継前の交渉において、建物・設備・機器等のハード関係は意外と見過ごされやすい事項です。今まで問題なく使っていたから、今後も大丈夫という観念が根底にあるからと思われますが、承継後にトラブルにならない為にも、交渉の過程で細部を詰める必要があります。  

一例として、クリニックの土地・建物は譲渡せずに、賃貸扱いとしたものの、建物の修繕費・管理費等の負担区分を決めていなかったためトラブルになった、というケースがあります。                                      

ここでも、事前の対策としては、譲渡契約書において、1)譲渡対象資産は何か(保有資産か、リース資産か)、2)譲渡される医療機器の費用負担区分の規定、3)建物・設備他の費用区分の規定、を確認する必要があります。

④お金に関わるトラブル

クリニックの承継においては、お金に関わるトラブルは最も敏感な問題の一つです。ここでは、以下の代表的な例を取り上げます。

譲渡価格の算定

日本医師会のアンケート調査によると、譲渡価格の算定は承継を検討する現院長が持つ不安の上位に挙げられています。                           

クリニック事業の譲渡価格は、基本的に「譲渡対象資産の価値(時価評価)+営業権(のれん代)」の合計額で算定されるのが一般的です。                 

然しながら、特に営業権はM&A仲介業者により算定方法が異なり、誤解を招きやすい価値ですので、譲渡側の院長においては、アドバイザーから詳しい説明をお聞きになり、各種方法による算定価格を比較することで、十分に納得して頂く必要があります。

承継後の補助金の返還要求 

承継前に旧経営者が利用した補助金・助成金に対して、場合によっては該当する制度の規定が適用され、承継後に返還を要求されることがあります。              

これは、譲渡前に譲受側が行う買収監査(デューデリジェンス)で確認すべき事項の一つですが、万一見過ごされた場合に備えて、譲渡契約書において、譲渡側(旧経営者)の責任区分と、譲受側(新経営者)の免責条項を確認すべきでしょう。

以上、第三者承継(M&A)で起こりやすいトラブルの具体例をご説明しましたが、最終の譲渡契約書締結に向けては、譲渡側・譲受側の双方の関心事項をチェックリストとして整理し、細部まで確認しあうという対策を講じるべきと考えます。

クリニック承継開業後のPMI(経営安定化対策)

PMI(Post Merger Integration)は、M&A後の経営統合や体制整備を指す言葉で、医業分野でも導入が進んでいます。その背景に、現在は承継開業によっても安定的に収益を確保できる時代ではなくなったという時代認識があります。また、承継開業に当たって譲渡金額の融資の返済や、一部内装工事代金、新規購入の医療機器費用等の返済も考えられます。       

従って、新経営者は承継開業後の経営トラブルや収益悪化を招くリスクを極力排除しなければなりませんので、最近とみに承継開業後のPMIに注目が集まるようになっています。

①開業準備と経営基盤の再構築

承継開業では、新院長の方針の元で新たな運営体制を整備し診療を開始します。これは新規のクリニック開業と同様の開業準備になります。                    
即ち、新院長の方針に従い、レセプト請求や労務管理、院内マネジメント等の見直しや再構築を行い、業務フローおよび院内ルールを明確化します。また同時にスタッフ教育も重要です。
新院長とスタッフの信頼関係を築くために、面談や意見交換の場を設けることも望まれます。加えて、地域との関係を再構築することも開業準備の重要な要素になります。近隣住民へのご挨拶、地域医師会への参加、患者紹介元との関係構築など緻密な対応により、スムーズな経営スタートをめざすことになります。

②事務局代行他の外部支援の活用

昨今、クリニックではPMIの一環として医業に特化した事務局あるいは事務局長代行サービスの活用が拡大しています。これにより、院長は診療に集中でき、事務作業の負担が軽減されることで経営の質の向上が期待されます。                       

当社でも、最近クリニックからの経理代行の受託が増加傾向にあり、加えて事務局代行サービスの相談件数も増えております。                          

厚労省の「診療所自主管理の手引き」に記載の通り、クリニックには医療関連法規上の管理や帳票・記録管理、業務委託管理、感染性廃棄物管理、防災体制の管理、放射線管理など約70項目に及ぶ自主点検項目が示されています。加えて、日常の経営管理、業務管理やスタッフの労務管理も行わなければなりません。                     

多忙な院長一人がこのような多種多様な管理の任に当たる姿は、到底厳しいものがあります。クリニック本来の役割は、患者に質の高い診療サービスを提供することですから、経営安定化に向けて、院長が診療に傾注できる体制整備は積極的に導入すべきと言えます。

院長に代わってクリニック事務局に期待される業務の一つに、スタッフの定着率向上を目的とした人事評価制度の導入が挙げられます。クリニック経営は、それ自体が独立独歩ではありません。その時々の社会状況の影響を受けて対応を迫られます。昨年、ベースアップ評価料の施設基準が制定されましたが、これによって、医療業界ではスタッフの賃金改善や人事評価に強く焦点が当てられています。そのため、クリニック開業当初から人事評価制度を導入するクリニックが増える傾向にあると言われます。目的としては、スタッフの適正な評価を行うことで院長の経営方針をアピールし、ひいてはスタッフの定着率向上を目指したい、という方向性です。この業務なども多忙な院長に代わり、事務局が代行すべき業務ではないでしょうか。 

次回は、本シリーズの(3)手順は着実に、闇雲に進めるのはリスクです、と題して医業承継のプロセスについて解説します。

*当社は、医療福祉本部に「医療M&A専門チーム」を設置しております。ご質問、ご相談等は、是非当社の医療福祉本部までお寄せ下さい。

執筆者 / 三田村 清幸

税理士法人TOTAL 医業経営コンサルタント
岩手大学工学部卒業

理数系の教育分野で海外勤務後、我が国初の医業経営コンサルティング専門企業の設立に参加。海外・国内の病院コンサル事業に従事、同社は国内最大手企業に成長。役員を経て、2020年に税理士法人TOTAL入社

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