クリニック開業のススメ
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(2)医業承継の分類と、第三者承継(M&A)の実際〜その1〜

1回目の本稿では、医業承継の対象となるクリニック事業と医療法人の承継方法を取り上げます。また、第三承継(M&A)の3通りの承継パターンを比較し説明します。
医業承継の分類
医業承継は、クリニック事業の承継と、医療法人の承継の二つに分類されます。それぞれの承継に対して承継先により以下の通り分類されます。
①クリニック事業の承継
クリニック事業の場合、個人クリニックと、医療法人クリニックの二つが譲渡対象となります。また、承継先は親族および親族以外の第三者に分かれますが、どちらの場合においても個人または法人が譲り受けることになります。

②医療法人の承継
医療法人を譲渡する場合においても、クリニック事業と同様に、承継先は親族および親族以外の第三者になりますが、その他に他の医療法人との合併も可能です。但し、医療法人の合併には注意が必要です。例えば「出資持分あり」の医療法人が「出資持分なし」の医療法人と新設合併する場合、合併後の医療法人は「出資持分なし」の医療法人に限定されます。

クリニック事業の一般的な第三者承継(M&A)
ここで、医業承継で現在、最も一般的に行われているクリニック事業の第三者承継を取り上げてみます。第三者承継とは、譲渡側の何らかの事情により、現在運営しているクリニックを外部の医師や医療法人に事業を引き継ぐ方法です。
この方法は、後継者が不在のケースでは有力な選択肢となり得ますが、譲渡価格の評価や条件交渉、地域との関係維持など、承継の着地点に向けて高度なマネジメント能力が求められます。また、前回の記事でご説明したとおり、相談先の確保が成功の重要な要素となるでしょう。以下では第三者承継(M&A)の承継方法として、3通りのパターンを例示します。
①M&A仲介会社を介した承継
これは、何らかの理由によって譲渡を決めたクリニックが、仲介会社を通じて第三者の譲渡先を確保し、両者が正式に交渉の末に成約に至るという承継方法です。

この承継方法では、M&A仲介会社を経由する方式が現状では最も一般的です。その他に、下図のように譲渡側と譲受側の双方が別々の代理人(アドバイザー)を立てて、成約に至る方式も普通に行われています。

②後輩の知人、あるいは友人のドクターに承継
このケースは件数として多くありませんが、時折見られる事例です。メリットとしては、承継先が既に確保されているため、新たに承継先を探す必要がないこと、また、譲渡側と譲受側が知人・友人関係であるため、着地点に向けて両者の合意が得られやすいことです。
更には仲介会社を通さず、アドバイザーには契約書等の手続き関係の書類作成のみを依頼することになるため、手数料が安く抑えられるメリットがあります。
その他に、承継後も旧院長を通じて継続的に安定してスタッフや患者が確保でき、承継後に焦点となりやすいPMI(承継後の経営安定化対策)にも問題なく対処できる点もこのパターンの強みに挙げられます。
反面、もし知人・友人関係である両者の絆が浅い場合には、親族内承継で起こりやすいトラブルと同様の問題が危惧されます。例えば、費用を抑える為、買収監査(デューデリジェンス)は行われず、また契約書や確認書も一般的なものになるでしょうから、承継後に予想されるトラブルの種は隠れてしまいます。基本的には、このパターンの場合にもやはり信頼できる相談先(アドバイザー)を確保し、プロセスを最後まで監視する必要がありそうです。

③突然の第三者承継
順調にクリニックを経営している院長が突然の不幸に見舞われるケースです。
当然ながらこの場合、ご本人に代わってご遺族が閉院か、承継を選択することになります。
承継の場合には、もちろんご遺族にとって突然のことで、なんら準備がなされていない中での承継作業になりますので、先ずは現在のクリニックの経営状況を確認し、ご遺族が閉院か、承継かの選択を整理する必要があります。その上で実績が多く能力の高い相談先を選定することになります。もちろん患者への説明を第一に行うのはいうまでもありませんが。

次回は、第三者承継(M&A)で起こりやすいトラブルについて、実際の例を見ながら解説していきます。
*当社は、医療福祉本部に「医療M&A専門チーム」を設置しております。ご質問、ご相談等は、是非当社の医療福祉本部までお寄せ下さい。
執筆者 / 三田村 清幸
税理士法人TOTAL 医業経営コンサルタント
岩手大学工学部卒業
理数系の教育分野で海外勤務後、我が国初の医業経営コンサルティング専門企業の設立に参加。海外・国内の病院コンサル事業に従事、同社は国内最大手企業に成長。役員を経て、2020年に税理士法人TOTAL入社