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(1)クリニック承継開業は相手探しの旅、相談先はありますか?

現在、後継者不足や賃金、内装工事等の費用の高騰といった様々な時代背景により、医療業界においても、「譲る側」と「譲られる側」の双方の想いから新規開業に代わって承継開業が増えています。承継開業とは、「買い手」のドクターが既に運営されているクリニックを引き継ぎ、自身の経営として新たにスタートを切る開業形態のことを指します。

承継開業のメリットとしては、一般に以下の点が挙げられています。

  • 開業にかかる時間的・資金的な負担を抑えることができる
  • 既に通院している患者さんを引き継ぐことができ、比較的安定した経営が見込める
  • ゼロからスタートする新規開業と比べてリスクが少ない、など

承継開業自体については、現下の医療制度を守り、医療機関が国民医療に貢献するために、今後とも承継開業の増加傾向が続くであろうと考えるものですが、その実現に向けては、当事者となる双方のドクターに、医療では馴染みが薄い「医療事業の売買」という商慣行に立ち会う姿勢が求められます。

また、同時に、「譲られる側」のドクターには、新規開業後に必ず直面するクリニックの経営安定化という命題を、真っ先に念頭に置いて着実に計画を進める必要があります。

第1回では、クリニックの継承開業をめざす時、なぜ相談先の存在が必要か、また相談先に求められる役割について考えていきたいと思います。

承継に至る前、そもそも双方のドクターの想いは何でしょうか

承継開業は、クリニックを「譲る側」のドクターと、それを「引き継ぎたい」ドクターの双方にとってメリットのある仕組みですが、承継に至る前に、両者はどのような想いを持って承継に臨むのでしょうか。以下にその一端を想定してみます。

①譲る側のドクターの想い

  • (高齢の為)そろそろ引退したいが、後継者がいない。閉院も考えたい。
  • M&Aで現クリニック譲渡を考えたいが、面倒そうで不安がある
  • 後を継げる、信頼できるドクターの探し方が分からない 

*日本医師会「医業承継実態調査,2020年」によると、約51%のクリニック院長が後継者はいないと回答しています。

②譲られる側のドクターの想い

  • 新規開業のコストは高いので、承継開業なら安く済みそうだ
  • 分院を増やして、経営拡大したい
  • 取引先の銀行からOKが出たので、資金調達には問題がない 

承継開業は、クリニックを手放したい医師と、それを引き継ぎたい医師の双方にとってメリットのある仕組みです。譲渡する側は、自らが長年かけて築いた診療体制や患者層を活かしてもらえる安心感があり、経済的な利益も見込めます。一方、譲受側にとっては既存のインフラや地域の信頼をそのまま引き継ぐことができるため、開業後のスタートダッシュがしやすくなりますが、特に都市部より地方での承継においては、住民のニーズに応え続けるという社会的な意義を伴うのも通例です。

スタートラインに立つ双方のドクターの不安

いざ、承継のスタートラインに立って、現クリニックを譲る決断したドクターと、及び承継開業を目指そうとするドクターの双方は、それぞれに様々な不安を抱えています。

①承継の検討に際して、現クリニック院長が不安に思うこと

日本医師会「医業承継実態調査,2020年」によると、以下の順番で不安要素が現れています。

  • 信頼できる相談先が見つかるか (73%)
  • 承継先を自力で見つけられるか (65%)
  • 妥当な金額で譲渡できるか   (64%)
  • 引退後の生活水準を維持できるか(34%)
  • 行政手続き等の事務が不安   (34%) 

②「買い手」となり、承継開業を目指すドクターの不安要素

これについては、具体的な調査結果は公表されていませんが、多くのドクターにとって、「売り手のドクターは未知の相手」であること、また「多額の投資となる事業」となるため確認すべき要素が非常に多く、不安に駆られることが想定されます。

  • 本当にこのクリニックを引き継いで大丈夫なのか
  • 現クリニックの診療方針や患者層が自分に合っているか
  • 現スタッフとの関係がうまく築けるか
  • 機器、設備や現クリニックの経営状態に問題がないか
  • 承継後、一人で経営責任を負うことに対する心理的なハードル

以上の通り、承継のスタートラインに立つ時でさえ、双方のドクターは様々な不安を抱えています。これらの懸念を払拭し、納得して計画を進めるには独力では限界があります。専門的な知見と知恵を持つ第三者(相談先)の存在が必要不可欠になると言えましょう。

承継開業は専門性がある相手探しの旅、故に相談先が必要

承継開業を進めるプロセスは、単なるビジネスマッチングではなく、「医療という専門性のある相手探し」の旅です。                               

医業承継の本質は、単なる機器・設備という物や経営権の引き継ぎではなく、「人」と「地域」の医療の営みを継承することであり、従って譲渡側と譲受側の間に築かれる信頼関係が基礎となります。譲渡側と譲受側の相性が合わなければ、承継後に種々のトラブルや、承継したクリニックの経営悪化を招くリスクも考えられます。

承継開業に着地するまで、理念、診療スタイル、地域医療に対する姿勢などの価値観の共有が重要なポイントとなることはご理解いただきたいと思います。

以上の点から、未知なる相手探しの旅故に、承継開業をめざすドクターには信頼できるパートナーや相談先などの同伴者は必須といえます。

相手が存在する親族内承継に潜む課題

親族内承継とは、院長の子息や兄弟などの親族にクリニック事業を引き継ぐ方法です。

血縁関係に基づく信頼やスムーズな意思疎通が期待できることから、一見すると順調に進むように思われがちですが、現実には見過ごせない課題が多々存在します。詳細は、本稿第4回で述べますが、以下がその例です。

  • 後継者はいるが、医業経営のスキルや熱意もなく、相応しい人材ではない
  • 承継させたい親族がいるが、診療科が違うため本人にその意思がない
  • 医師の子供がいるが、診療スタイルや働き方に対する価値観が大きく異なるため、承継後のクリニック経営が不安である
  • 後継者の性格から、既存スタッフとの信頼関係や、患者との接し方に不安を覚える

*日本医師会「医業承継実態調査,2020年」によると、約49%の院長が「後継者はいる」と回答しています。その内、約21%の院長は「本人の意思は確認済み」としていますが、残りの約28%は「本人の意思は未確認」と答えています。

親族承継は、しばしば親族間の感情的なしがらみを伴うのが通例です。そのような場合には現院長に経営判断を曇らせるリスクがあることは否定できません。往々にして公私の境界が曖昧になり、適切な経営判断がなされにくくなります。そのため、たとえ親族間の承継であっても、冷静な視点から助言を行える信頼できる第三者(相談者)の存在が不可欠といえるでしょう。

医業承継は一つのプロジェクト、成功にはプロジェクトマネージャーの存在が重要

承継開業に不可欠ともいえる相談先の存在について、日本医師会では、「譲る側」の現クリニック院長を対象とした複数回答方式でアンケート調査を行っています(医業承継実態調査,2020年)。

それによると、以下の順番で承継プランの相談先が挙げられています。

  1. 顧問税理士(54.3%)
  2. 郡市医師会(25.5%)
  3. 都道府県医師会(18.6%)
  4. 金融機関(14.5%)
  5. 取引業者(13.0%)
  6. M&A専門業者(9.7%)
  7. 特に決まっていない(33.8%)

この結果から、承継の初期の段階ではM&A専門事業者に相談するより、先ずは身近にいる方に相談する傾向が強いことがわかります。

更に、先に「承継を検討する現経営者が不安に思うこと」で述べた通り、現クリニック院長の約73%は「信頼できる相談先が必要」と判断されています。

ですが、相談内容それ自体も、承継のプロセスが進行する度に変化していくことも医業承継の特徴です。

例えば、譲渡側のドクターの場合、初期の段階では、当該地域の医療状況や患者状況はどうなっているか、引退後の現院長のライフバランスを背景に譲渡金の設定はどうするか、などの相談があります。

これが具体的に承継候補者が現れると、候補のドクターは信頼できるか、承継後の継続勤務はできるか、譲渡契約書の内容をどうするか、現スタッフの継続雇用は保証して貰えるか、現スタッフの労務対策、行政対策などといった着地点に向けてより具体的な相談になっていきます。この過程で注意すべきは、相手先とのことばのやり取り一つで、承継候補者から誤解や不信を招き、交渉中止となることもあり得るということです。

例えば、承継候補者からある質問が出たとしましょう。そして譲渡側の院長が回答を用意する間、譲渡側のアドバイザーから数週間以上も何も連絡がないとすると、承継候補者は「譲渡側に誠実さがない、信用できない」と解釈し、次の案件探しに走るかもしれません。同様のことは、承継を受ける側のドクターについてもあり得ます。

以上の通り、想定されるプロセスから見て、クリニックの承継開業は一つのプロジェクトとみなす方が最適かもしれません。例えば現行の建設などのプロジェクトでは、たとえ設計図や計画表が周到に準備されていたとしても、往々にして予期せぬ課題が多々発生します。その際にはプロジェクトマネージャーの指揮の元、適切に課題が解決され、最終的にプロジェクトは完了となります。

従って、これをクリニック承継開業と照らし合わせた時、相談者となる存在は、単なる両者の仲介役や相談役に留まらず、プロジェクトマネージャーの役割を持つキーパースン(M&Aアドバイザー)であるとの認識を持ち、承継開業の着地点まで依頼者を成功裏に導く、というのが本来あるべきアドバイザーの役割であろうと考えます。

次回は、(2)医業の承継形式の分類と、第三者承継(M&A)の実際、についてご説明します。

*当社は、医療福祉本部に「医療M&A専門チーム」を設置しております。ご質問、ご相談等は、是非当社の医療福祉本部までお寄せ下さい。

執筆者 / 三田村 清幸

税理士法人TOTAL 医業経営コンサルタント
岩手大学工学部卒業

理数系の教育分野で海外勤務後、我が国初の医業経営コンサルティング専門企業の設立に参加。海外・国内の病院コンサル事業に従事、同社は国内最大手企業に成長。役員を経て、2020年に税理士法人TOTAL入社

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