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クリニック開業での資金調達とは?融資・借入のポイントを徹底解説!
医療の道を志し、自身の理念を実現するために医院やクリニックの開業を考えている方々にとって、資金調達は避けて通れない重要な課題です。適切な資金計画なくしては、どんなに優れた医療技術や熱意があっても、理想の医療サービスを提供することは困難です。本記事では、医院・クリニック開業時の資金調達における4つの重要なポイントについて、詳しく解説していきます。
資金調達の重要性とは?
医院やクリニックの開業は、医療従事者にとって大きな夢であり、同時に大きな挑戦でもあります。その挑戦の中で最も重要な要素の一つが、適切な資金調達です。開業には多額の資金が必要となるため、慎重な計画と準備が不可欠です。
開業コストの概要
クリニックの開業には、一般的に数千万円から数億円の資金が必要です。この金額は、開業の規模、診療科目、立地条件などによって大きく異なります。主なコストとしては、以下が挙げられます:
・土地・建物の取得費用: 都心部で土地を購入して戸建て開業を目指す場合、土地と建物だけで数億円に達することも珍しくありません。
・内装工事費: 診療所に適した内装や設備を整えるため、数千万円規模の費用が発生します。
・医療機器の購入費: 高度な医療機器の導入には多額の投資が必要です。例えば、最新のMRIやCTスキャナーは1台で数千万円から1億円以上、基本的な設備であるレントゲン装置や血液検査機器なども数千万円単位の費用がかかります。
・人件費と広告宣伝費: 開業後の安定した運営のために、スタッフの人件費や患者獲得のための広告費も計上する必要があります。
郊外での開業や賃貸物件の利用を選択することで初期費用を抑えられる場合もありますが、それでも数千万円規模の資金が必要となる点は変わりません。適切な資金計画を立てることが、夢の実現へ向けた第一歩となるでしょう。
資金調達の必要性と課題
これらの高額な開業コストを考えると、自己資金だけで全てを賄うことは多くの医師にとって困難です。そのため、外部からの資金調達が必要不可欠となります。しかし、資金調達には様々な課題があります。
まず、融資を受けるためには綿密な事業計画が求められます。金融機関は、医院やクリニックの将来性や返済能力を慎重に審査します。そのため、単に医療技術に優れているだけでなく)、経営者としての視点やスキルも必要となります。
さらに、開業後の収支見通しも重要です。開業直後は患者数が少なく、収入が安定しないことが多いため、 この初期期間をどう乗り切るかが、開業成功の重要な課題となります。
これらの課題に適切に対応するためには、次に説明する4つの重要ポイントを押さえることが不可欠です。
資金調達における4つの重要ポイント
医院やクリニックの開業時の資金調達を成功させるためには、以下の4つのポイントを意識することに注目する必要があります。これらのポイントを押さえることで、より安定した資金の調達と、将来的な経営の安定化を図ることができます。
ポイント1.経営理念・医療理念・診療方針
意外に思われるかもしれませんが、資金調達プランの作成時にまず必要となるのが先生の「こういう医院・クリニックにしたい」という思いです。 そのビジョンをもとにして、必要となる医療機器や人員配置、内装等が具体的にイメージできるようになると、開業に必要な費用の全体像も見えてきます。 また、経営理念や診療方針は融資の面談でも聞かれますので、必ず準備しておきましょう。これは融資の面談担当者からの信頼・好印象を獲得するためにも必要となってきます。
ポイント2. リアルな事業計画の策定
資金調達の第一歩は、実現可能な事業計画の策定です。事業計画は単なる形式的な書類ではなく、あなたの医院やクリニックの将来像を具体化し、その実現可能性を示すものです。
良質な事業計画には、診療科目と提供するサービスの詳細、ターゲットとする患者層の分析、地域の医療ニーズと競合状況の調査、予想される患者数と収益の試算、人員計画、マーケティング戦略、初期投資の詳細と資金調達計画、月次・年次の収支予測、リスク分析とその対策などが含まれます。
融資面談時にこれらの要素を含むものとして伝えられる事業計画は、金融機関からの信頼を得ることができます。また、この過程で自身の事業の強みや弱み、機会やリスクを明確に理解することができ、より戦略的な開業準備が可能となります。
ポイント3. 適切な融資先の選択
開業資金の大部分は外部からの融資で賄うことになりますが、その融資先の選択は慎重に行う必要があります。
一般的な融資の選択肢のイメージでは、主な選択肢として、銀行ローン、政府系金融機関の融資、医療機関専門のノンバンク、設備メーカーやディーラーの融資などがあると思われると思いますが、実は開業に有利な金融機関は限られています。テナント型開業でのおすすめは、自治体別の医師信用組合や民間金融機関の中でクリニック開業ローンを商品として提供している所ですが、社会情勢を背景に条件は流動的なため、直近で融資実績が多くあって、各行の比較検討のアドバイスができる開業支援の専門家に、任せる方がよいでしょう。
ポイント4. 現実的な返済計画の立案
融資を受ける際には、必ず返済計画を立てる必要があります。この返済計画は、楽観的な予測ではなく、現実的で達成可能なものでなければなりません。
返済計画を立てる際には、開業直後の不安定な収入、季節変動や地域特性による収入の変動、予期せぬ支出や収入の減少、生活費の支出も考慮に入れた余裕のある運転資金の推移予想は、保守的なものにする必要があります。現実的な返済計画は、金融機関からの信頼を得るだけでなく、自身の経営の指針としても重要な役割を果たします。定期的に計画と実績を比較し、必要に応じて計画を修正していくことで、安定した経営を維持することができます。
医療機関向け融資の種類と特徴
医療機関の開業や運営に特化した融資制度は多数存在します。これらの融資制度を適切に活用することで、より有利な条件で資金を調達することが可能です。
銀行ローンの活用
銀行ローンは、最も一般的な資金調達の方法です。医療機関向けには、まず開業支援ローンが提示されている金融機関を探して下さい。
次には、このローンを利用する際は、金利条件や返済期間、担保条件などを複数の銀行で比較検討することが重要です。また、メインバンクとの関係構築も将来的な融資や経営支援の観点から重要となります。
公的融資制度の利用
公的機関が提供する融資制度は、民間の銀行ローンに比べて金利が低く、返済期間が長い点が大きな特徴です。主な公的融資制度には以下が挙げられます:
・日本政策金融公庫の「新規開業資金」
・独立行政法人福祉医療機構の融資
・地方自治体の制度融資
これらの公的融資は、基本的な資金調達に役立ちますが、一般的なテナント開業の場合、満額の資金を確保できないケースや制約があることも少なくありません。しかし、公的融資制度は民間の銀行ローンと組み合わせて利用することで、その弱点を補うことが可能です。
たとえば、公的融資を活用して基本的な資金を確保し、不足分を銀行ローンで補うといった方法を採用することで、柔軟かつ現実的な資金計画を立てることができます。このように複数の融資先を組み合わせることで、負担を抑えつつ開業資金を効率的に調達することが可能です。
リースの活用方法
医療機器の導入には、購入だけでなくリースという選択肢もあります。リースには、初期投資の抑制、費用の平準化、最新機器の導入のしやすさなどのメリットがあります。
ただし、長期的に見ると購入よりも総額で割高になる可能性もあるため、機器の種類や使用頻度、将来の技術進歩の見通しなどを考慮して、購入とリースを適切に使い分けることが重要です。
資金調達を成功させるためには?
医院やクリニックの開業時における資金調達は、単に融資を受けるだけでなく、長期的な経営の成功につながる重要なプロセスです。
キャッシュフロー管理の重要性
資金調達の成功は、適切なキャッシュフロー管理から始まります。キャッシュフローとは、事業における現金の流れのことを指し、医療機関の場合、診療報酬の入金サイクルや経費の支払いサイクルを正確に把握し、管理することが重要です。
効果的なキャッシュフロー管理のためには、収入と支出の予測を立て、資金の過不足を事前に把握することが不可欠です。また、予期せぬ支出や収入の遅れに備えて、ある程度の予備資金を常に確保しておくことも大切です。
さらに、支払いサイクルの最適化も効果的な方法の一つです。可能な範囲で、支払いのタイミングを調整し、キャッシュフローを安定させることで、資金繰りの改善につながります。
キャッシュフロー管理は一度行えば終わりというものではありません。経営状況に応じて定期的に見直しを行い、必要に応じて調整を加えることが求められます。
設備投資の最適化
医院やクリニックの開業時には、多くの医療機器や設備への投資が必要となります。しかし、過剰な設備投資は資金繰りを圧迫し、経営を圧迫する要因となる可能性があります。
設備投資を最適化するためには、各設備や機器の必要性を慎重に精査し、投資の優先順位を決定することが重要です。また、一部の設備については信頼できる中古機器を検討することでコストを抑えられる可能性があります。
さらに、全ての設備を一度に揃えるのではなく、優先度の高いものから段階的に投資していくことで、初期の資金負担を軽減できます。
実績のある専門家への相談
医院やクリニックの開業は、医療の専門知識だけでなく、経営や財務の知識も必要とする複雑なプロセスです。そのため、資金調達を成功させるためには、直近で多くのクリニックの融資実績のある専門家を見つけることが非常に有効です。
適切な専門家がいれば、客観的な視点からの計画となり、専門知識を活用した適切な返済計画として評価される事業計画や資金計画を立てることができます。また、専門家のネットワークを通じて有利な融資条件や支援制度の情報を得られる可能性があり、潜在的なリスクを事前に洗い出し、対策を立てることができます。さらに、金融機関との交渉において、専門家のサポートを受けることで、より有利な条件を引き出せる可能性があります。
特に相談を検討すべき専門家には、直近で融資支援実績のある医療経営コンサルタント、医療系会計事務所、医療特化型の金融アドバイザー、医療機関の開業経験のある先輩医師、医療機器メーカー、医薬品卸などがいます。これらの専門家に相談することで、資金調達の成功確率を高めるだけでなく、開業後の安定した経営にもつながります。
専門家の助言を受けながら、自身のビジョンを明確にし、それに基づいた堅実な資金計画を立てることで、医院やクリニックの開業という大きな挑戦を、より確かなものにすることができるでしょう。
開業後の財務管理と資金繰り
医院やクリニックの開業後も、適切な財務管理と資金繰りは経営を安定させるために欠かせません。ここでは、開業後の財務管理と資金繰りについて、重要なポイントを解説します。
収支バランスの維持
開業後の安定した経営のためには、収支バランスの維持が極めて重要です。収入が支出を上回る状態を継続的に保つことで、借入金の返済や将来の投資に向けた資金の確保が可能となります。
収支バランスを維持するためには、まず収入の安定化に努める必要があります。患者数の確保と維持、診療報酬の適切な請求と管理、そして必要に応じて診療科目や診療時間の見直しを行うことが求められます。加えて、支出の管理も欠かせません。毎月の費用の定期的な見直しと最適化により、効率的な管理、無駄な支出の削減などを心がけましょう。
さらに、適切な税務管理も忘れてはいけません。適切な税務申告と納税はもちろん、会計事務所から事前の利益予測と節税案の提案も確認しましょう。
収支バランスを適切に維持することで、安定した経営基盤を築くことができます。これは、将来的な設備投資や事業拡大の際の資金調達にも有利に働くため、長期的な視点で取り組むことが重要です。
追加融資の検討と活用
医院やクリニックの経営において、追加融資は事業拡大や資金不足への対応策として重要です。また、融資を検討する際は、その必要性を見極め、適切な金額を設定することが求められます。現在の経営状況と将来の収益予測を踏まえ、返済能力を十分考慮しましょう。金利条件や返済期間を比較し、最も有利なプランを選ぶと同時に、無理のない返済計画を立てることが肝心です。
また、金融機関との良好な関係構築も大切です。定期的な経営状況の報告やオープンなコミュニケーションが、将来の資金調達を円滑にする可能性があります。また、医療機関向けの低金利融資制度や補助金などの公的支援制度の活用も検討しましょう。
なお、追加融資は慎重に判断する必要があります。過度な借入は経営を圧迫する恐れがありますが、適切なタイミングでの融資は事業成長につながる可能性もあります。医療の質向上と経営の安定のバランスを保つため、常に経営状況を把握し、長期的な視点で財務管理に取り組むことが、医療機関の持続的な発展につながります。
執筆者 / 松崎 史朗
税理士法人TOTAL 開業支援部部長
宅地建物取引士合格 FP2級技能士 証券外務員一種 明治大学卒業
国際証券(現在の三菱UFJモルガンスタンレー証券)でリテール営業を経験後、外資系メーカーなどにも勤務。個人事業4年間を経て平成30年より税理士法人TOTAL再入社