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クリニック開業のメリットとデメリットとは?医療モールでの開業を徹底解説!
近年、医療業界では医療モールでのクリニック開業が注目を集めています。従来の単独開業とは異なり、複数の診療科が一つの建物内に集まる形態をとる医療モールは、医師にとって新たな選択肢となっています。しかしながら、この開業形態にはメリットとデメリットが存在します。
本記事では、医療モールでクリニック開業を検討している医師の皆様に向けて、そのメリットとデメリットを詳しく解説します。開業の形態を決める際の判断材料としてご活用ください。
医療モールでクリニック開業のメリット
医療モールでクリニックを開業することには、いくつかの大きなメリットがあります。これらのメリットは、特に開業初期の負担軽減や、クリニックの安定経営につながる可能性が高いため、多くの医師にとって魅力的な選択肢となっています。
集客の容易さ
医療モールの最大のメリットは、複数の診療科が集まっているため、単独のクリニックよりも集客力が高いという特徴があります。例えば、内科で診察を受けた患者が、同じ建物内にある皮膚科や眼科にも足を運びやすくなります。この相乗効果により、新規患者の獲得がスムーズになり、開業初期の不安定な時期を乗り越えやすくなります。
また、医療モール全体での広告宣伝活動も期待できます。個々のクリニックで広告を打つよりも、医療モール全体としての広告効果が高く、コストパフォーマンスに優れています。これにより、地域住民への認知度向上や信頼性の確立をスピーディに行えるメリットがあります。
運営の効率化
医療モールでのテナント開業では、医療開業や経営管理のノウハウを持つ運営会社がサポートしてくれる場合も多く、経営面での不安も軽減されます。これは、医療の専門家である医師にとって、特に開業初期には大きな助けとなるでしょう。
他科との連携によるサービス向上
医療モール内では、異なる診療科のクリニックが近接しているため、患者の状態に応じて迅速な連携が可能です。これにより、総合的な医療サービスの提供が可能となり、患者満足度の向上につながります。
例えば、内科で糖尿病と診断された患者を、同じ建物内の眼科や皮膚科に紹介することで、合併症の早期発見や予防が可能になります。このような連携は、単独開業のクリニックでは難しい場合が多く、医療モールならではの大きなメリットといえるでしょう。
医療モールでのクリニック開業には、これらのメリットがあります。しかし、すべての医師にとって最適な選択肢であるとは限りません。次のセクションでは、医療モール開業のデメリットについて詳しく見ていきましょう。
医療モールでのクリニック開業のデメリット
医療モールでのクリニック開業には多くのメリットがある一方で、考慮すべきデメリットも存在します。これらのデメリットを事前に理解し、自身の状況や目標と照らし合わせることが重要です。
自由度の制限
医療モールでの開業する際の、最大のデメリットの一つが、経営の自由度が制限されることです。単独開業の場合と比較すると、診療時間や休診日、内装のデザインまで、様々な面で制約を受ける可能性があります。
例えば、医療モール全体の営業時間に合わせる必要があるため、自分の希望する時間帯での診療が難しくなる場合があります。また、患者のプライバシーに配慮する必要から、待合室の配置や動線の設計に制限が生じることもあります。これらの制約は、医師の理想とする診療スタイルの実現を妨げる可能性があります。
競合の可能性
医療モール内に同じ診療科のクリニックが開業する可能性があり、直接的な競合が生じる場合があります。基本的にはモールのオーナーが競合しないよう、同診療科目の枠を確保してくれるはずですが、一般内科に消化器内科、循環器内科などそれぞれ中心となる専門性が異なるような場合には、入れてしまうケースもゼロではありません。これは患者の獲得や収益に影響を与える可能性があるため、その場合には賃貸借契約書に同種のクリニックが入れないような内容になっているか等、慎重に開業を考慮する必要があります。
競合が予想される場合、差別化戦略が重要になりますが、医療モールの制約の中でどこまで独自性を出せるかが課題となります。例えば、特殊な治療法や最新の医療機器の導入を検討しても、モール内での既定のスペースや設備の制限により実現が難しい場合もあるでしょう。
契約条件による制約
医療モールとの契約条件によっては、長期的な経営の自由度が制限される可能性があります。例えば、契約期間中の退去制限や、売上の一定割合を共益費として支払う必要がある場合など、様々な条件が設定されることがあります。
これらの条件は、将来的な経営方針の変更や規模拡大の際の障壁となる可能性があります。また、医療モール全体の評判や経営状況が悪化した場合、個々のクリニックにもその影響を受けざるを得ない状況に陥る可能性もあります。
プライバシーへの配慮
医療モールでは、複数のクリニックが近接しているため、患者のプライバシー保護により一層の注意が必要です。特に、精神科や診療内科など、患者が他人の目を気にする診療科では、この点が大きな課題となる可能性があります。
医療モールでのクリニック開業には、これらのデメリットが存在しますが、これらのデメリットは、事前の十分な調査と準備により、ある程度軽減することができます。医療モール開業を検討する際は、これらのデメリットを十分に理解し、自身の診療方針や長期的なビジョンと照らし合わせて判断することが重要となります。
次のセクションでは、医療モール開業と単独開業を比較し、それぞれの特徴をより詳しく見ていきます。
医療モール開業と単独開業の比較
医療モール開業と単独開業は、それぞれに特徴があり、医師個人の目標や状況によって最適な選択肢が変わってきます。ここでは、収入面、時間の柔軟性、リスクと責任の度合いの3つの観点から両者を比較します。
収入面での違い
収入面では、医療モール開業と単独開業で大きな違いが生じる可能性があります。医療モールの場合、集客力の高さから、安定的に患者数を確保しやすい傾向にあります。
一方で、医療モールでは賃料や共益費などの固定費が高くなる傾向があり、これらの費用が経営を圧迫する可能性があります。例えば、繁華街や駅前など、好立地の医療モールでは賃料が高額になることが多く、収益性に影響を与える可能性があります。
単独開業の場合、物件の発掘次第で固定費を抑えられる可能性があります。また、経営の自由度が高いため、独自のサービスや特殊な診療科目の導入により、高収益を目指すことも可能です。
ただし、収入面での優劣は、立地条件や診療科目、個々の医師の経営手腕など、様々な要因に左右されるため、一概にどちらが有利とは言えないのも事実です。
勤務時間の柔軟性
勤務時間の柔軟性という点に関しては、単独開業の方が有利な場合が多いでしょう。単独開業では、診療時間や休診日を自由に設定できるため、ワークライフバランスを重視した働き方が可能です。
一方、医療モールでは、モール全体の営業時間に合わせる必要があるため、勤務時間の自由度は制限されます。例えば、夜間診療や休日診療を行う医療モールでは、それに応じた診療体制を組む必要があり、プライベートな時間の確保が難しくなる可能性があります。
ただし、長時間営業する医療モールでは、複数の医師でシフトを組むことができる場合、個々の医師は負担を軽減できる可能性があります。
医療モールでの開業を成功させるポイント
医療モールでの開業を成功に導くには、その特性を理解し、戦略的なアプローチを取ることが不可欠です。以下に、成功のための重要なポイントを詳しく解説します。
立地と患者層の分析
成功の第一歩は、適切な立地選択と患者層の綿密な分析です。医療モールだからと言って集患が良いわけではなく、きちんと人口密度や交通の利便性だけでなく、地域の年齢構成、健康ニーズ、競合状況などを総合的に調査することが重要です。例えば、若い家族が多い地域では小児科や産婦人科の需要が高く、高齢者が多い地域では整形外科や循環器内科のニーズが高まる傾向があります。
また、周辺の企業や学校の分布、将来の都市開発計画なども考慮に入れるべきです。これらの要素を踏まえて、自身の専門性と地域のニーズがマッチする立地を選ぶことが、安定した患者数の確保につながります。
専門性の確立
医療モール内での差別化を図るには、明確な専門性を確立することが重要です。単に一般的な診療を行うだけでなく、特定の疾患や治療法に特化したり、最新の医療技術を導入したりすることで、患者に選ばれる環境を作り出すことができます。
例えば、糖尿病専門外来を設けて、栄養指導や運動療法を組み合わせた総合的なケアを提供したり、睡眠時無呼吸症候群の診断と治療に特化したクリニックを開設したりするなど、独自性のある診療スタイルを確立することが有効です。
効果的なマーケティング戦略
医療モール内での競争を勝ち抜くには、効果的なマーケティング戦略が欠かせません。ウェブサイトやSNSを活用した情報発信、地域コミュニティとの連携、患者紹介プログラムの実施など、多角的なアプローチを取ることが重要です。
特に、予防医学や健康増進に関する情報提供や、患者教育セミナーの開催などは、地域住民との信頼関係構築に効果的です。また、医療モール全体のマーケティング活動に積極的に参加し、相乗効果を生み出すことも成功の鍵となります。
これらのポイントを押さえつつ、常に患者のニーズに耳を傾け、質の高い医療サービスを提供し続けることが、医療モールでの開業成功につながります。
まとめ: ドクターの自己実現と、リスク管理のバランス
自己実現の機会と制約
医療モールでのクリニック開業は、ドクターの自己実現の観点から魅力的な選択肢です。 集合的な広告や建物自体のランドマーク的な認識による集患メリットや適切な運営サポートにより、比較的スムーズに開業への夢を実現できる可能性があり、また他科との連携や多様な患者層との接点は、医師としての成長や新たな医療サービスの開発につながる機会を提供します。
しかし、経営の自由度や独自性の発揮には一定の制限があることも事実です。医療モールの運営方針や他のクリニックとの調和を考慮しながら、自身の理想とする医療の提供と折り合いをつける必要があるでしょう。この制約は、時にリスク管理の面で有利に働く場合もありますが、個人の志向や価値観によっては大きな課題となる可能性があります。
リスク管理と意思決定
リスク管理の観点からは、医療モールでの開業は、集患や運営面でのサポートにより、経営の安定性を確保しやすい傾向にあります。しかし、契約条件や競合状況によっては、予期せぬリスクに直面する可能性もあります。
最終的には、自身のキャリアプラン、経営方針、生活スタイルなどを総合的に考慮して医療モールでのクリニック開業を判断することが不可欠です。また、開業後も常に環境の変化に適応し、必要に応じて戦略を修正していく柔軟性が求められます。
本記事で解説したメリット、デメリット、成功のポイントが、皆様の開業計画の一助となり、最適な選択への道標となることを願っております。
執筆者 / 松崎 史朗
税理士法人TOTAL 開業支援部部長
宅地建物取引士合格 FP2級技能士 証券外務員一種 明治大学卒業
国際証券(現在の三菱UFJモルガンスタンレー証券)でリテール営業を経験後、外資系メーカーなどにも勤務。個人事業4年間を経て平成30年より税理士法人TOTAL再入社