クリニック開業のススメ
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医院・クリニック開業に内覧会は必要か?
医院やクリニックを開業する際、多くの医師が「内覧会は本当に必要なのか」という疑問に直面します。開業準備の過程で、内覧会の実施を迷う方も少なくありません。本記事では、医院・クリニック開業における内覧会の必要性について、様々な角度から検討していきます。内覧会の目的や効果、メリット・デメリット、そして効果的な実施方法や代替手段まで、幅広く解説していきますので、開業を控えた医師の皆様にとって、貴重な判断材料となるでしょう。
クリニックの開業は、医療サービスを提供する側と受ける側の双方にとって重要な出来事です。その中で、内覧会という取り組みが持つ意義は非常に大きいと言えるでしょう。本記事では、クリニック開業における内覧会の必要性、効果、実施方法、そして代替手段について詳しく解説していきます。
内覧会の意義と必要性
クリニック開業における内覧会の役割
内覧会の意義は、開業までにお世話になった業者様や先生方、その他関係者への内輪的な発表の機会を通じ、感謝の意を表明するとともに継続的なご支援をお願いする場ということもありますが、それよりも重要なのは、『患者様となる方々へのクリニックのお披露目の場』であることです。 精神科や心療内科で内覧会を行うことは稀ですが、それ以外の診療科目では、周辺エリアからの初期集患を一刻も早く増やす手段として極力行った方がよいでしょう。内覧会は新しく誕生するクリニックと地域社会を結ぶ架け橋としての役割を果たします。地域住民にとっては、新しい医療施設を直接見学し、その雰囲気や設備を肌で感じる貴重な機会となります。医療サービスは地域の人々の健康や生命に直結する重要なものだけに、どのような場所でどのような人々が診療を行うのかを事前に知ることができるのは、大きな安心感につながります。
クリニック側にとっても、内覧会は自院の理念や特色を効果的にアピールする絶好の機会となります。最新の医療機器や快適な診察室、バリアフリー設計などの特徴を直接見てもらうことで、言葉では伝えきれない魅力を伝えることができます。さらに、院長や医療スタッフが来場者と直接対話することで、医療に対する姿勢や人柄を伝えることができ、信頼関係の構築に大きく寄与します。
また、内覧会は地域の医療ネットワークの中に自院を位置づける重要な機会として利用することもできます。他の医療機関や介護施設の関係者を招くことで、将来的な医療連携の基盤を築くことができます。これは、患者紹介や情報交換などの面で大きなメリットとなり、地域医療の質の向上にもつながる可能性があります。
内覧会が集客に与える影響
内覧会の実施は、開業後の初期集患の推移に大きな影響を与えます。まず最も直接的な影響として、内覧会参加者が開業後の初期患者となる可能性が高いことが挙げられます。実際に施設を見学し、医療スタッフと対話を持った人々は、クリニックに対する心理的な障壁が低くなり、受診を検討しやすくなります。開業前には、事前にオープンの日付を明記したビラ・チラシを新聞の折り込み広告やポスティングなどを通じて、新規開院を周辺住民へお伝えすることがほどんどですが、ここにイベント的な内覧会の日時も記載されていれば、より一層、開業の事実が記憶に残る可能性が高まります。
開業3年後に、お年寄りの方が開業時のチラシを持って来院されるケースも報告されています。チラシを捨てずに大事に取っておいたのでしょう。また、開業が認知されていない結果、「クリニックがあったのを知らなかった」と1年後に言われてしまうような機会損失は、可能な限り避けねばなりません。
さらに、内覧会での良好な印象は口コミを通じて広がっていきます。参加者が家族や友人、同僚などに新しいクリニックの情報を伝えることで、内覧会に参加していない人々にも良い影響が波及していきます。この口コミ効果は、有料広告では得られない信頼性の高い情報拡散となり、長期的な集患につながる可能性があります。
医療機関同士の連携という観点からも、内覧会は重要な役割を果たします。内覧会に参加した他の医療機関の関係者が、新しいクリニックの特徴や設備を理解することで、その医療機関から適切な患者紹介につながる可能性が高まります。
また、内覧会の開催自体がニュース性を持つため、ごく稀にではありますが、地域メディアに取り上げられる可能性もあります。地域の新聞などで紹介されることで、より広範囲に渡って認知度を高めることができます。
内覧会のメリットとデメリット
開業前の認知度向上と患者獲得
内覧会の最大のメリットは、開業前から地域での存在感を示せることです。医療サービスは信頼関係が特に重要な分野であり、内覧会を通じて早い段階から医療施設の新規開設の事実を認知してもらいながら、患者様との関係構築を始められます。
また、内覧会は地域のニーズを直接聞く貴重な機会にもなります。参加者との対話を通じて、地域が求める医療サービスや、既存の医療機関では対応しきれていない課題などを把握できます。これらの情報は、開業後のサービス改善や、地域に根ざしたクリニック作りに活かすことができ、長期的な経営の安定につながります。
コストと労力の観点からの考察
一方で、内覧会の開催にはそれなりのコストと労力がかかることも事実です。会場の準備や広報活動、当日の運営やスタッフの皆様に手伝いとして出てもらう人件費など、開業準備と並行して行うにはある程度の負担とはなります。内覧会の規模にもよりますが、一般的なクリニック開業よりも全体的に少ない資金や人員で開業を試みたクリニックにとっては、割合的にこの負担は気になるところでしょう。
また、内覧会の準備には一定の時間が必要です。案内状の作成や配布、会場設営、スタッフの教育など、細かな作業が多岐にわたりますので、これらの準備を先生やスタッフだけで行うことは効率が悪くなります。その結果、かなりの時間を取られることで、本来の開業準備に支障が出る可能性があります。内覧会の規模にもよりますが、業者さんに依頼すればそこまで高い費用を掛けなくとも効果は十分に出ますので、開業後の初期集患と広告宣伝費としての内覧会費用を天秤にかけて、費用対効果が不透明であったとしても、内覧会は行われた方が良いでしょう。
もちろん、期待した効果が得られない場合、投資に見合わない結果となることもあります。例えば、参加者数が少なかったり、参加者の多くが実際の患者につながらなかったりする場合です。特に、地域性や診療科の特性によっては、内覧会の効果が限定的になる可能性もあります。
効果的な内覧会の実施方法
最適な開催時期の選定
内覧会の開催時期は、その成功を左右する重要な要素の一つです。一般的には、クリニック開業日の直前週の土曜又は日曜日が多くなります。この時期であれば、もちろんクリニックの内装工事やメディカル機器の設置がほぼ完了している状態で、開業に向けたスタッフの研修もほぼ終えて、来場者に実際の診療環境に近い状態を見てもらうことができます。
また、開業直前の数日前という時期は、地域住民の記憶に鮮明に残る絶妙なタイミングです。内覧会から開業日まで期間が空きすぎると、せっかく高まった関心が冷めてしまう恐れがありますが、開業直前だと、内覧会で感じて頂いた良い印象をそのまま、週明けの週にご来院して頂くことに繋がります。
そのため、土曜、日曜日と2日連続して内覧会を開催され、次の月曜日から開業だと患者様の流れもスムーズなのですが、連日の内覧会を手伝ってくれたスタッフが、開業日には疲れ果て、当日のオペレーションやクリニックの雰囲気作りにも、かえって逆効果になってしまわぬよう注意も必要です。
ターゲット層に合わせた内容設計
内覧会の内容は、クリニックのターゲット層に合わせて綿密に設計することが重要です。ターゲット層によって関心事や不安要素が異なるため、それぞれのニーズに合わせたプログラムを用意することで、より効果的なアプローチが可能となります。
例えば、小児科クリニックの場合、子ども連れの家族が安心して来院できる雰囲気づくりが重要です。待合室に「おもちゃコーナー」を設置したり、診察室でのロールプレイを通じて子どもの不安を和らげる工夫を紹介したりすることが効果的でしょう。また、子どもの表情やスタッフとの会話のなかで、それを見守るお母様、お父様との適切なお声がけによるコミュニケーションも重要となります。
高齢者向けのクリニックであれば、バリアフリー設計の説明に重点を置くことが大切です。段差のない通路、手すりの配置、車椅子対応のトイレなど、高齢者や障害を持つ方々が安心して利用できる設備を丁寧に紹介します。
また、どのような診療科であっても、最新の医療機器のデモンストレーションは効果的です。ただし、単に機器の性能を説明するだけでなく、それがどのように患者さんの診断や治療に役立つのか、具体的な事例を交えて分かりやすく解説することが重要です。
内覧会の代替手段と補完策
SNSやウェブサイトを活用した情報発信
デジタル技術を活用した情報発信は、内覧会の代替または補完として非常に効果的です。ウェブサイトやSNSを通じて、クリニックの情報を広く発信することができます。
まず、クリニックのHPを中心とした、充実したウェブサイトの構築が重要です。クリニックの理念、提供する医療サービス、医師のプロフィール、設備の紹介など、詳細な情報を掲載することで、潜在的な患者さんに安心感を与えることができます。HPを第二の集患窓口として戦略的に力を入れたい場合には、例えばバーチャルツアーのような360度画像や動画コンテンツを活用すると、実際に訪れたような臨場感のある紹介が可能になります。
さらに、SNSの活用も効果的です。Instagram、X(旧Twitter)、Line公式アカウントやFacebookなどのプラットフォームを使って、開業準備の過程や日々の診療の様子を発信することで、クリニックの雰囲気や医療スタッフの人柄を伝えることができます。また、健康に関する情報や医療コラムを定期的に投稿することで、フォロワーとの継続的な関係構築が可能になります。
地域連携による信頼構築
地域の医療機関や関係団体との連携を通じて、信頼関係を構築する方法も内覧会の有力な代替手段となります。
まず、地域の既存医療機関への個別訪問が挙げられます。開業前に近隣の病院やクリニックを訪れ、自院の特徴や連携の可能性について説明することで、より密接な関係構築が可能になります。これにより、将来的な患者紹介や医療連携につながる可能性が高まります。
内科や婦人科、小児科など標榜する診療科目によっては、地域の医師会への参加により地域における)存在感を高めることが期待されます。医師会を通じて他の医療従事者とのネットワークを構築し、自院の情報を発信することができるからです。医師会の会合や研修会に積極的に参加することで、地域医療における自院の位置づけも明確にすることができるかもしれません。
地域のイベントへの参加も効果的です。健康祭りや地域のお祭りなどに医療相談ブースを出すなどして参加することで、地域住民との直接的な接点を持つことができます。このような機会を通じて、クリニックの存在を地域に浸透させることができます。
内覧会実施の判断基準
クリニックの特性と地域性の考慮
内覧会実施の判断にあたっては、まずクリニック自体の特性を十分に考慮する必要があります。例えば、高度な専門性を持つクリニックの場合、内覧会は専門的な医療サービスの内容や最新の医療機器について詳しく説明する絶好の機会となります。一方で、一般的な診療科目のクリニックであれば、地域に根ざした親しみやすさをアピールする場として内覧会を活用できるでしょう。
クリニックの規模も重要な要素です。大規模なクリニックであれば、充実した設備や多彩な診療科目を一度に紹介できる内覧会は効果的でしょう。しかし、小規模なクリニックの場合、大がかりな内覧会よりも、院長先生やスタッフ様の雰囲気、見学者へのお声がけといった人と人とのコミュニケーションに力を入れた全体の雰囲気作りに焦点をおいたほうが、患者様にすでにかかりつけクリニックがあったとしても、来院して頂ける可能性は高くなることでしょう。
また、開業する地域の特性も慎重に検討する必要があります。都市部と郊外では、住民の生活様式や医療ニーズが大きく異なる可能性があります。都市部であれば、忙しい勤労者向けの夜間診療や休日診療の体制をアピールすることが重要かもしれません。一方、郊外の住宅地であれば、家族全員の健康を総合的に管理するかかりつけ医としての役割を強調することが効果的かもしれません。そのため内覧会でも、地域の特性を考慮した患者様を想定した開催時間やアテンドの方法を検討しても良いかもしれません。ちなみに内覧会の標準的な開催時間は10~15時までとなっています。
投資対効果の分析方法
内覧会の実施には一定のコストがかかるため、その投資対効果を分析する意味はありそうです。しかしながら内覧会の開催はクリニックで1度きりのため、投資対効果の分析は再現性に繋がるわけではなく個人クリニックにおいてはそれほど意味は持ちません。ですが、ここではあえて内覧会の効果を測定し、その投資価値を判断するための方法について考えてみましょう。
まず、定量的な指標の設定が重要です。例えば、内覧会の参加者数、そのうち実際に来院した患者数、開業後の一定期間における新規患者数などが考えられます。これらの数値目標を事前に設定し、実際の結果と比較することで、内覧会の直接的な効果を測定できます。
また、内覧会参加者へのアンケート調査も有効です。クリニックの印象、医療サービスへの期待度、来院の可能性などを尋ねることで、内覧会が潜在的な患者の意識にどの程度影響を与えたかを把握できます。さらに、このアンケートを通じて得られた意見や要望は、開業後のサービス改善にも活用できます。
地域での認知度変化も重要な指標です。内覧会の前後で地域住民へのアンケート調査を実施し、クリニックの認知度がどの程度向上したかを測定することができます。これは、内覧会の広報効果を評価する上で有用な情報となります。
さらに、内覧会を通じて構築された医療ネットワークの価値も考慮に入れるべきです。他の医療機関からの紹介患者数や、連携して行った医療サービスの件数などを追跡することで、内覧会が地域医療連携にもたらした効果を評価できます。
一方で、内覧会にかかるコストも詳細に把握する必要があります。患者様にお渡しするノベルティグッズや、内覧会向けのポケットティッシュや追加ビラ・チラシなどの広告宣伝費、人件費などの直接的なコストに加え、準備に費やした時間や労力などの間接的なコストも含めて総合的に評価しましょう。
これらの要素を総合的に分析し、内覧会の投資対効果を判断します。ただし、内覧会の効果は長期的に現れる可能性もあるため、短期的な数値だけでなく、中長期的な視点での評価も重要です。
最終的には、これらの分析結果と、クリニックの経営方針や地域における位置づけなどを照らし合わせ、内覧会実施の是非を判断することになりますが、内覧会は単なるイベントではなく、クリニック経営の長期的な成功のための戦略的な投資として捉えることが大切です。
慎重な判断と綿密な計画に基づいて実施することで、内覧会は新規開業クリニックの強力な武器となります。また、効果の測定と分析により集患の弱点を予測することにも繋がるため、明確な理由がある場合を除き、内覧会は開催される方向で検討されることをお勧めいたします。
執筆者 / 松崎 史朗
税理士法人TOTAL 開業支援部部長
宅地建物取引士合格 FP2級技能士 証券外務員一種 明治大学卒業
国際証券(現在の三菱UFJモルガンスタンレー証券)でリテール営業を経験後、外資系メーカーなどにも勤務。個人事業4年間を経て平成30年より税理士法人TOTAL再入社