職員を採用する際に、給与の次に重点を置くべき項目として事業所における社会保険の加入が挙げられます。
新規開業クリニックに勤務する従業員様は、ほとんどが転職です。今まで厚生年金を掛け続けてきた方にとっては社会保険の加入は必須条件のひとつともいえます。
ここでは、「健康保険」「厚生年金保険」について、どのような場合にどの保険への加入が必要になるか、そしてそのメリットとデメリットは何なのかを考えていきます。
目次
常勤者が5人以上の事業所は社保加入が必須
まず、個人事業所で常時勤務する従業員が5人以上いる場合には、厚生年金保険の強制適用事業所になり、加入が法律で義務付けられています。
強制加入とは政府が保険者である厚生年金に加入することであり、必ず健康保険もセットで加入することになります。
参考:クリニックで従業員を採用したら検討すべき保険・年金の種類と保険料の試算例
社会保険に加入するメリット:社会保険完備の魅力
常勤4人までの個人事業所は社会保険に任意で加入することができます。
保険料の事業主負担があり、義務ではありませんから加入しなくても良いのですが、最初から社会保険への加入を選ぶクリニックが多いのには理由があります。
求人広告を出した時の反応に「社会保険完備」の事業所とそうでない事業所とでは、応募人数が大きく変わってくるのです。
仕事を探す上でポイントになるのは、
- 土日出勤の有無
- 給与額
- 社会保険が完備されているか
といった項目です。
「社会保険完備」は福利厚生が充実した良い職場、雇用の安定した職場というイメージにつながります。
採用面を考えると、保険料の負担を差し引いても社会保険に加入するメリットは大きいと言えます。
また、開業する際に、院長先生の前の職場の従業員を引き抜いて連れてくることもあります。
病院勤務をしている方は、今まで厚生年金保険へ加入している場合が多く、やはり次の職場でも社会保険が完備されている事業所で働きたいものです。
社会保険は社会的にも広く認知された制度であるため、保険制度が充実している職場は良い人材の確保につながりやすいです。
健康保険を医師国保にするという選択肢も
開業と同時に厚生年金へ加入する場合には、健康保険は協会けんぽがセットになります。
しかし、開業後に福利厚生の一環として厚生年金に加入する場合は、一定の条件をクリアしていれば、健康保険は協会けんぽではなく、医師国保に留まることが可能です。
保険料だけの比較をすると、協会けんぽの保険料は事業主と従業員が折半することになりますが、医師国保の場合の保険料は従業員が全額負担することになっています。
また、医師国保は収入によらず保険料が一定なので、ドクター自身にとっても、市区町村の国保よりも保険料負担が小さくなる可能性が高いというメリットがあります。
下記の表が、それぞれのメリットとデメリットになります。
メリット
協会けんぽ | |
---|---|
自家診療 | 保険請求が可能 |
保険料 | 職員の≪給与+通勤費の合計≫に応じて決まる為、 受付事務等の給与が低い職員には比較的負担が軽い |
扶養家族の保険料 | 負担なし |
育児休業中の保険料 | 免除制度あり |
傷病手当金 | 受給制度あり |
出産手当金 | 受給制度あり |
その他 | 職員の安定雇用につながる |
医師国保 | |
事業主の保険料負担 | なし |
保険料 | 職員の≪給与+通勤費≫の額に関係なく一律である為 看護師等の給与が高い職員には比較的負担が軽い |
賞与に係る保険料 | かからない |
デメリット
協会けんぽ | |
---|---|
事業主の保険料負担 | 保険料の1/2を負担しなければならない |
保険料 | 職員の≪給与+通勤費の合計≫に応じて決まる為、 看護師等の給与が高い職員には比較的負担が重い |
賞与に係る保険料 | 賞与額に9.96%の保険料が係る(1/2を負担) |
医師国保 | |
自家診療 | 保険請求ができない |
保険料 | 職員の≪給与+通勤費≫の額に関係なく一律である為 受付事務等の給与が低い職員には比較的負担が重い |
扶養家族の保険料 | 扶養家族の人数に応じて増加する |
育児休業中の保険料 | 免除はなく、一律でかかる |
傷病手当金 | 受給制度なし(組合により条件付きで有り) |
出産手当金 | 受給制度なし |
加入制限 | 従業員の住所地によって加入できない場合がある (東京都医師国保の場合:東京都(島しょを除く)、神奈川県、千葉県、埼玉県及び茨城県(取手市、利根町、龍ケ崎市、守谷市、常総市、つくばみらい市、つくば市、牛久市、阿見町、土浦市)の区域に住所のある方) |
加入制限 | 住民票に記載されている同世帯の方で国民健康保険に加入している人は全員が医師国保に移行しなければならない (又は世帯分離をして本人のみ医師国保へ加入) |
(注)加入当初、5名以上(事業主を除く)従業員がいる個人事業所は厚生年金の≪強制適用事業所≫となるため、医師国保へ加入することが出来ず社会保険への加入が必須です
(注) 既に5人未満の従業員が医師国保に加入している状態で、5人目の従業員を追加加入させる場合は、【健康保険被保険者適用除外申請書】を提出することで、医師国保を継続した状態で厚生年金へ加入することが出来ます
まとめ
採用を考えるなら社会保険には加入しておきたいところですが、そうすると事業主の負担は増加します。
また、開業当初はいろいろな経費がかかる上に、経営を安定させるまでにも時間がかかります。
開業時は国民健康保険・国民年金に加入してもらい、その後、5人目を採用するときか医療法人化するときに社保に加入しようというドクターも多いです。
その場合、求人広告では「社会保険完備」に見劣りしないよう、社会保険分をやや上乗せした高めの給与設定にするというテクニックもあります。
社会保険への加入については、開業時のみではなく、開業後も常に頭を悩ます問題です。
社会保険に加入するメリット・デメリットを理解した上で、加入のタイミングはしっかりと見極める必要があります。
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