「年齢を考えるとそろそろかなぁ、開業した先輩の話を詳しく聞いてみるか。」
そう思い立って医院・クリニック開業について調べてみると、以下のような「クリニック開業の流れ」が目に入ってきます。
- 開業コンセプトの明確化
- 立地・物件の選定(マーケティング)
- 資金調達(事業計画・事業収支シミュレーション)
- 内装、デザイン、施工
- 医療機器等の選定
- 広告宣伝等(ホームページ作成、PR)の検討
- スタッフの求人募集
- 開設手続き(行政手続き)
- 信頼のおける会計事務所選定
- 人事労務の決定
- 開業前職員教育(各種研修)
- 内覧会
- 開業
どれも重要な項目ですが、この中でも特に重要なのが赤色を付けた4項目です。
これら4つのポイントを押さえておくかどうかで、開業前・開業後の難易度は大きく変わることでしょう。
ご自身の現在の認識とズレがないかどうか、1つずつ確認してみてください。
目次
ポイント1:【開業コンセプト、経営理念などの明確化】-覚悟と理念-
そもそも、なぜ開業をしたいと思われたのでしょうか。
開業とは事業を起こすことに他なりません。
医院・クリニック経営という事業は、たとえ自己資金で開業資金の大部分をカバーできるとしても、莫大なエネルギーと時間がかかります。
それこそ、パートナーや家族を巻き込んでの人生を賭けた一大イベントとなります。
開業後は予期せぬトラブルが起こり得ますし、事業主・院長としての責任の範囲は、勤務医時代や雇われ院長の比ではありません。
資金面だけでも水道光熱費やスタッフのお給料など考慮することは山ほどあります。
それらすべてについて、経営者として判断していかなければならないのです。
もし開業を検討するにあたって、
『自由に自分のペースで診療をして食べていければいいな』
程度のモチベーションでしたら、開業はもっと深く考えてからにした方がよいでしょう。
一般的に、開業後の1~2年の立ち上げ期には収益が損益分岐点を超えずに、手元のキャッシュ(運転資金)は減り続けていくことになります。
この立ち上げ期の手元資金の減り具合を目の当たりにすると、事前のシミュレーション等で想定はしていても、心配になってしまう先生がほとんどです。
「本当にこのままのやり方でいいのだろうか…」と不安に襲われてしまうのです。
そのような厳しい立ち上げ期に心の推進力を確保してブレずに前進するためにも、ぜひ事前に、信念に基づいた開業コンセプトをしっかりと確認しておきましょう。
その開業コンセプトこそが「なぜ開業をする(した)のか」という問いの答えとなり、そして立ち上げ期に自分を支えてくれる心強い羅針盤となります。
また、医業はサービス業です。
クリニックの開業コンセプトや経営理念を検討するにあたっても、医業がサービス業であることを前提として考えていくべきです。
そうしないと「サービス先」であるお客様、つまりは患者様にとって不満が目立つクリニックとなってしまう可能性があります。
加えて、医療サービスは医師のみではなくスタッフとのチームプレーである点にも注意が必要です。
院長がどれほど崇高なコンセプトや理念を持っていたとしても、それがスタッフに伝わっていなければ意味がないのです。
たとえば、治療行為がどんなに適切であったとしても、スタッフの対応が悪ければ患者様の満足度は低下し、クリニックとしての評価も期待できません。
コンセプト・理念をクリニック全体に反映し、チームとして機能させるための方針も、しっかり考えていきたいところです。
ポイント2:【立地の選定】-開業初期の最重要項目-
開業を条件面で考えた時には、まずは何よりも『物件の立地』が重要です。
立地といっても、単純に「患者様にとって利便性が良さそうだ」というものではなく、「診療圏調査」などの具体的なマーケティングも踏まえる必要があります。
また、テナントなどで開業を検討されている場合には、価格や広さといった条件も大切です。
どんなに良い医療サービスでも立地が悪ければなかなか集患に結びつきません。
患者様に認識されていなければ存在していないものと同じになってしまいます。
「適切な医療サービスを提供していれば、いずれ口コミなどで分かってもらえるはず…」というのはありがちな思い込みなのですが、経営の視点からみると大変危険です。
立ち上がりの厳しい時期を乗り越えるためにも、開業地の選定にあたっては集患が難しい立地を選択すべきではありません。
また、とても良い立地に思えても、すぐ近くに同じような診療科目で競合するクリニックがある場合は避けた方がよいです。
分かりやすい例としては駅前立地があげられます。
特に評判の良いクリニックが近くにあるような場合は、インターネット上の口コミでも比較されやすくなってしまうため、避けた方が賢明でしょう。
ただし、「駅前立地は競合が多いので避けた方がいい」という単純な話でもありません。
ある程度すでに競合クリニックが存在していても、周辺エリアの人口密度が高かったり、交通アクセスによって多少遠方からの集客も見込めたりする場合は、開業地の候補として検討対象に入ってきます。
患者という需要に対し、クリニックという供給のバランスがどうなっているのか、その状況を見極めることが重要なのです。
ポイント3:【労務】-院長とスタッフ-
「労務」といっても色々ありますが、ここでいう「労務」は開業前の採用計画についてです。
開業時の求人は「オープニング・スタッフ」ということで追加募集よりも集まりやすいため、これを活かしてなるべく良い人材を確保したいものです。
客観的な人材の質の他に気にすべき点としては、シフトの問題や、院長および他のスタッフとの相性といったものが考えられます。
いくら「良い人材」であったとしても、そのクリニックや院長との相性が悪いと早期離職につながりかねません。
また、開業当初よりある程度の人数を確保しなければならない場合には、それらの人を束ねるマネジメント業務も考えて採用する必要があります。
さらに肝に銘じておきたいのは、人材は資産にもコストにもなるという点です。
社会保険などの福利厚生の充実は応募者の増加につながる反面、人件費の増加にもつながります。
開業にあたって採用計画の重要性を理解している方は多いですが、良い人材(資産)ばかりだからといって過剰採用(コスト増)とならないように注意しましょう。
ポイント4:【会計事務所の選定】-開業後の専門家の中身-
開業前はどうしても『無事に開業するまで』が気になりますが、クリニックとしての本番は開業後です。
そして、クリニックの開業後に本格的な付き合いが始まるのが、税理士(会計事務所)と社会保険労務士となります。
- 税理士…確定申告を踏まえた効率的な節税策の提案や、毎月の経営状況の報告など
- 社会保険労務士…スタッフの雇用に関する各種手続きや、労務問題が起きた時の対応相談など
また、会計事務所の中には手厚い開業支援サービスを行っている所もありますので、そういった会計事務所とつながりを持っておくことは選択肢の一つとなります。
しかしながら、たとえその窓口の開業コンサルタントが魅力的であったとしても、その担当者がずっと税務・労務を見るとは限りません。
開業後のサービス内容がどうなるのかは事前に確認しておくべきでしょう。
加えて、その無料開業支援の中に含まれている項目にも注意が必要です。
一例ですが、「就業規則や院内ルールの整備・明確化」といった項目が含まれているのかどうかによって、その後の経営効率に大きな差が出てくるというケースもあります。
TOTAL医療チームでは、税務契約・労務契約を前提に、融資申込みの相談、行政への届出、採用活動の相談、面接、入職者に対する説明会、経理研修、就業規則や院内ルールの作成など、多岐にわたる開業支援を無料で行っています。
クリニックの開業前はどうしても「開業するまで」をどう乗り切ろうかという点ばかりが気になってしまうと思います。
ですが、開業後にどういった会計事務所、社労士事務所と付き合うべきなのかも、早い段階から検討しておくことをお勧めします。
順調な医院・クリニック経営を実現するために
クリニック経営は一般的な事業と比べれば失敗する確率はまだまだ低く、適切な手順で検討していけば過度に心配し過ぎる必要はありません。
それでも本当に開業するのかどうかについて、安易にとらえることなく時間のあるうちに深く考えていただければと思います。
いざ船出をした後は、舵取りのすべての責任は船長である院長の肩にのしかかってくることになります。
たとえるなら、嵐のような大きな社会状況の変化といった個人ではコントロールできない問題も、対策を試みながら進んでいかねばなりません。
今回お伝えした4つのポイントは、大きく外すとその航海に支障が出てくることにもなりかねませんので、しっかりとご検討下さい。